2023年第18回
日本構造デザイン賞
松井源吾特別賞

総合選考評

前の受賞者

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伊勢谷 三郎
(いせや・さぶろう)

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いせや・さぶろう

経歴と業績(受賞時)
旭ビルウォール(株)ガラス材料領域フェロー
1943年 新潟県生まれ/1966年 早稲田大学理工学部建築学科卒業
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1966~69年 旭硝子(株)中央研究所硝子商品研究室
・板ガラスの実用強度確認のための実大破壊試験(500枚/2500枚担当)。
・超高層ビル時代を迎え、カーテンウォールの実大性能試験(風圧・水密・耐震)確立。「霞が関ビルディング」等。
・1970年「日本万国博覧会パビリオン」向け新ガラス工法の開発(H10mガラスリブ工法等)。
・「日本万国博覧会美術館」(設計:川崎清、後の国立国際美術館)では世界に先駆けて、軽快な立体トラスの先端にフレームレス点支持工法を開発(その後ノーマン・フォスターが、1975年「ウィリス・フェイバー・デュマス本社ビル」でパッチ工法、続いて1981年「英国ルノー社部品配送センター」でプレーナー工法を開発)。
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1969年~2000年 旭硝子(株)東京支店硝子開発課
・設計事務所・建設会社・ガラス施工業者に対するガラス技術・施工アドバイザー。
・1978年宮城沖地震で震度6以上の激震に対し従来のリブガラス工法では十分ではないことが判明、耐震二重枠工法を開発(茂原市直下型地震で震源地真上に建った竣工直後の建物でその効果を実証)。
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2000年~2008年 旭硝子ビル建材エンジニアリング(株)に転籍
・ピーター・ライス氏の画期的なガラス工法(ガラスの局部集中応力を避けるDPG工法+テンションケーブル工法+連続吊り下げ工法+衝撃吸収機構)に衝撃を受け教授を受ける。成果として「日本長期信用銀行本店」(設計:(株)日建設計)等、多くのDPG工法を用いた透明ガラスファサード物件に携わる。
・「東京国際フォーラム」地上広場、地階への階段のガラスキャノピー(ラファエロ・ヴィニオリ設計事務所、構造:SDG渡辺邦夫+DMPティム・マクファーレン)。10tのガラスを鉄骨支持なしで10m跳ね出すためのリブガラス継ぎ手工法を開発(ベゼル金物+二重偏心リング)。
・「モエレ沼公園 ガラスのピラミッド」(設計:イサムノグチ、アーキテクトファイブ、構造:梅沢建築構造研究所)。極細鉄骨をテンションケーブル・ロッドで補強し、複層ガラスDPG工法で透明性が高いシンボリックな建築を実現。
・森美術館エントランス「ミュージアムコーン」(設計:森ビル(株)、構造:仁藤喜徳+藤川由美)。円盤リングとクロステンションケーブルで外殻を構成し、横連窓下見板風のDPG工法。
・「多摩美術大学図書館」(設計:伊東豊雄建築設計事務所、構造:佐々木睦朗構造計画研究所(協力)鹿島建設)。曲面かつ上部R加工ガラスをSSG構法で取り付けるために3次元SSGホルダーに小さな多数のガラス円盤を仕込んだコマガラス構法。
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2008年〜 旭ビルウォール(株)
・「ルイ・ヴィトンメゾン大阪御堂筋」外装ファサード:(設計:青木淳建築計画事務所)。三次元曲面ガラスファサードを支える支持構造をスリム化し全体として軽快感あふれる和船「菱型廻船」の風をはらんだ帆のイメージを実現。
・「ルイ・ヴィトン銀座並木通り店」外装ファサード:(設計:青木淳建築計画事務所)。光の当たり方、見る角度でさまざまな色に変化する幻想的なダイクロイックコーティングガラスを三次元曲面加工した合わせガラスを、フレームレス工法で支持し、「水の柱」のイメージを実現。
・高強度・歪みのない高平滑性・自爆なし・傷が付き難い化学強化ガラスを用いた新工法の開発。
・透明道路防音壁への展開。歪みが大きく数年で変色・劣化してしまうポリカボネート樹脂板に代わり、衝撃試験・防火試験にも合格。

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業績:ファサード・エンジニアリングを通じた建築および構造デザインへの顕著な貢献
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「1970年日本万国博覧会万博美術館」(設計:川崎清、画像提供:彰国社)  ▶

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選考評
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 松井源吾特別賞は、構造設計者の活動を理解し支えて下さってきた建築家、研究者、メーカーエンジニアの方々に感謝と尊敬の念を込めて授与してきたが、今年は構造デザインを彩るガラス・ファサード・エンジニアリングの開発および建築プロジェクトへの具現化を永年に渡り実践されてきた旭ビルウォール・伊勢谷三郎氏にお贈りすることとした。
 私自身が伊勢谷氏とお会いしたのは1992年にArup Londonでの派遣勤務を終え、帰国後担当した日比谷の旧日本長期信用銀行本店ビルガラスキューブのプロジェクトである。既にその時点で伊勢谷氏はR. RogersやN. Fosterらの日本プロジェクトのファサード・エンジニアリングを支える著名人であったが、日本で初めてのテンション材支持サッシレスDPG構法(日建設計、横田暉生氏の命名)で覆われた30m角のガラスの箱を実現するにあたり、鉄構エンジニアであった私自身は、旭硝子のエンジニアであった伊勢谷氏と同じ立場で、設計者である日建設計・原田公明氏のもと、わが国最初のこの課題に取り組んだ。
 当時、伊勢谷氏はすでに私の元上司でもあったP. Riceと交渉しLa Viletteシステムの日本における実施権を獲得していたが、テンション材の安定問題、高張力ロッドを用いた接合部の設計や張力導入、ガラス支持点の精度確保や強化ガラスの耐衝撃性確保など、多くの課題を乗り越えながらこの新しい構法を実現する必要があった。次から次へと顕在化する課題に対し、伊勢谷氏は穏やかな外見からは想像できない強靭な意思、課題の本質を見極める知識、そしてそれを解決するさまざまなアイディアを繰り出しながら障壁を乗り越えていかれた。
 次世代のファサード・エンジニアリングの鍵となる技術に対し常に貪欲で、かつそれを組織に納得させる剛腕と粘り強さを持ち、80歳となった今もわが国のガラス・ファサード・エンジニアリングを牽引し続けている技術屋魂の具現者である。それでいて人当たりはあくまでも優しく、協働した建築家は皆、伊勢谷氏のファンとなってしまう。
 そんな同氏を今回日本構造家倶楽部のメンバーとしてお迎えできることは誠に慶びであり、今後の益々のご活躍に期待したい。

竹内 徹(選考委員長・構造家)


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