2023年第18回
日本構造デザイン賞

総合選考評

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名和 研二
(なわ・けんじ)

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なわ・けんじ

経歴(受賞時)
なわけんジム
1970年 長野県諏訪生まれ
1994年 東京理科大学理工学部建築学科卒業
1998年 EDH遠藤設計室入社
1999年 池田昌弘建築研究所入社
2000年 なわけんジム(すわ製作所)設立

主な作品
門型の家(設計:眞田大輔+名和研二/すわ製作所、2007年) 2004(設計:中山英之、2008年) すごろくハウス(設計:鈴木えいじ/大建met、2009年) 空飛ぶジュータン(設計:近藤春司、2010年) すごろくオフィス(設計:平野勝雅・布村葉子/大建met、2012年) 潜水士のためのグラス・ハウス(設計:中薗哲也/ナフ・アーキテクト&デザイン、2012年) トレッタみよし(設計:中薗哲也 / ナフ・アーキテクト&デザイン、広島大学、2015年) KOYA(設計:SUMA/須磨一清、2015年) 堂前の家(設計:Life style工房 安齋好太郎、2018年) soil house(設計:安齋好太郎/ADX、2018年) KITOKI(設計:安齋好太郎/ADX、2022年)
著書
『ヴィヴィッド・テクノロジー─建築を触発する構造デザイン』共著、学芸出版社、2007年
『ハニカムチューブの建築』共著、新建築社、2006年
『構造設計を仕事にする: 思考と技術・独立と働き方』共著、学芸出版社、2019年

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個性的な構造デザインによる一連の作品群
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「KITOKI」SRCフレーム+W床層入れ子建築(設計:安齋好太郎/ADX、2022年、撮影:新建築社)  ▶

KITOKI
所在地:東京都中央区日本橋兜町8-5/主要用途:事務所、店舗/竣工:2022年/発注者:平和不動産/設計: 安斎好太郎/ADX/施工:ADX/敷地面積:142.16㎡/建築面積:106.94㎡/延床面積:738.75㎡/階数:地上10階/構造:SRC造(3層吹き抜け)+(2層木造床部)入れ子構造/工期:2021年1月〜2022年3月

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選考評
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 構造デザインという言葉を聞くと、1964年につくられた代々木競技場を思い出す。建築家の丹下健三と構造家の坪井善勝による協働のドラマは、今も神話のように伝えられている。その中にある「美は合理の近傍にある」という一文は、構造デザインを目指す建築家と構造家にとって、闇夜の中を導いてくれる星の灯りのようだ。
 これまで、わたしはこの「近傍」を、美(デザイン)と合理(構造)の研ぎ澄まされた緊張関係だと思っていた。しかし、名和研二さんの「KITOKI」を体験したとき、「近傍」という言葉の意味をもう一度考え直すことになった。
 「KITOKI」は、東京の日本橋に建つ中層のテナントビルである。都市における新しい木材の活用として、3層の吹き抜けのSRCのフレームの中に、2層の木造が入れ子状に納められている。入れ子の木造は構造を負担しないため脱着可能であり、将来的なテナントの入れ替えや機能の変化に対応することができるという。しかし、この木造は石膏ボードの耐火被覆のために見ることができない。さらに、SRCの3層フレームには構造的に必要のない丸太が、梁のように取り付けられている。
 これらの試みは「近傍」の外側にあるように感じられたが、名和さんの丁寧な説明を聞いてみると、都市における木材の活用は始まったばかりであり、これまでにない個性的なチャレンジを大切にしていることがわかってきた。今回、「近傍」という言葉の意味を揺さぶるような構造家が受賞を得たことが、構造デザインの世界をさらに拡げてくれると期待している。

福島 加津也(選考委員・建築家)


 本作は都市木造のメインテーマに真正面から取り組んだ力作である。市街地の木造は、お題目はいいとしても実際はさまざまな困難が行く手をはばむ。理解あるクライアント、デザイナーと一緒に、“なわけん”的手法でこれを乗り越え、ユニークな都市木造の構造を実現したことは称賛に値する。
 名和さんの世界観はとてもユニークだ。建築の構造という世界は、技術とデザインの頂点を極めようとする。合理性と最適化というアクセルがわれわれを突き動かすのだが、ちょっと待てよ、と考える。それだけでは世の中はちっとも面白くならないだろう。もうすこし立ち止まって周りを見てみよう。構造デザインだってそんなに極まってなくても、いろいろと面白い豊かな世界があるに違いない。
 言われてみると、そうですね、その通り。コンクリートだって、鉄骨だって木造だって、教科書には載っていなくても、世の中には自然に存在しているそんな豊かなあり方はいくらでもありそうだ。構造デザインのダイバーシティはまだまだだ。

岡村 仁(選考委員・構造家)


 昨今の木材利用の促進は目を見張るものがある。法の改正や補助金などの支援もさえることながら、これまでの知的技術的な蓄積が大きく花を開くように具体的なプロジェクトに利用されており、素材とエンジニアリングの融合を多様な解決策として見るのは楽しい。一方で、いきすぎた側面に出くわすことも少なくない。木材至上主義と受け取られかねないプロジェクトは、将来の木造離れを引き起こすのではと危惧している。「KITOKI」は都市木造といわれる提案の中では異質なものだろう。SRCのメガストラクチャーでフレームを構成し、3層の木造をそこに挿入する。木造としては実績のある規模の連続で、中高層建築を実現している。木造至上主義に陥らない立ち位置を自らつくるとても共感できる提案である。
 たしかにこれまでの名和研二さんの作品には、技術的な問題の前段を問いかけるような個性的な提案が多い。廃コンクリートを利用した作品や、型枠を利用しないコンクリートなど、その時代、場所、その固有の問題と構造計画を結びつけ、難しくなりがちな技術的な部分を飛び越え、解法を提示し、それがそのまま建築として立ち現れるのである。まさに建築と構造が融合した作品を多く手がけている。一見すると個性が強すぎる作品群も、話を聞いてみると腑に落ちる。そのような作品を手がける名和研二さんには、多様な構造家像の一端を見ることができる。まさに、日本構造デザイン賞に相応しい構造家であると思う。

大野 博史(選考委員・構造家)


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