2023年第18回
日本構造デザイン賞

総合選考評

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平岩 良之
(ひらいわ・よしゆき)

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ひらいわ・よしゆき

経歴(受賞時)
平岩構造計画代表
1982年 奈良県生まれ
2004年 東京大学工学部建築学科卒業
2007年 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了
2007〜2017年 佐々木睦朗構造計画研究所
2017年 平岩構造計画を設立

主な作品
松原児童青少年交流センターmiraton(設計:御手洗龍建築設計事務所、2022年)
屋島山上交流拠点施設(設計:SUO+Style-A設計共同企業体、2022年)*
「愛媛県歯科医師会館」(設計:矢野青山建築設計事務所、2021年)
「新青森県総合運動公園陸上競技場」(設計:伊東豊雄建築設計事務所、2019年)*
「河口湖とらのこ保育園」(設計:山下貴成建築設計事務所、2016年)*
「グレイス・ファームズ」(設計:妹島和世+西沢立衛
SANAA Handel Architects、2015年)*
*は佐々木睦朗構造計画研究所にて担当

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シェルターインクルーシブプレイス コパル(山形市南部児童遊戯施設)
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西側全景。背後に蔵王連峰(写真提供:大西麻貴+百田有希 / o+h)  ▶

シェルターインクルーシブプレイス コパル(山形市南部児童遊戯施設)
所在地:山形県山形市大字片谷地580-1/主要用途:児童福祉施設等/竣工:2022年/発注者:山形市(PFI事業者:夢の公園)/設計:建築:大西麻貴+百田有希 / o+h、構造:平岩構造計画、設備:Otias/施工:建築:高木・シェルター特定建設工事共同企業体、電気:タカハシ電工、外構:石川建設産業、木構造体供給:シェルター/敷地面積:22,295.30㎡/建築面積:3,334.81㎡/延床面積:3,175.90㎡/階数:地上2階/構造:鉄筋コンクリート造、鉄骨造、一部木造屋根/工期:2020年11月〜2022年3月

 

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選考評
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 インクルーシヴィティやアクセシビリティなどの概念は多様な人種、文化や経済が同居するアメリカなどでは特に、公共が接するすべての建築類型において大きな課題となって久しい。問題はそのような抽象的概念を、さらにどちらかといえば運営側の使命を、設計や構造が単なるリップサービスではなく、どう本質的に表現するかだ。
 おおらかな屋根、地形のようにゆるやかにスロープで繋がっている空間、外構ランドスケープとの一体化、中と外との連続性、木質の温かい雰囲気、エントランスの開放感など、コパルは上記のテーマを体現するために真摯に対応している建築であることは間違いない。実際、地域の人びとが多様な活動のために所狭しと集まっていて、子どもたちも建築とぶつかり合い、真剣に楽しんでいるのは印象的だった。
 平岩良之さんのエンジニアリングも然り、運営や設計が目指すイデオロギーを達成するため、真摯に構造的解決をしている。RCの基壇部と鉄骨フレームの屋根は、中央の木梁アーチの引き立て役となっていて、インクルーシヴィティの言語(もしそういうものがあるとしたら)を表現し達成することに注力している。その収めかたは丁寧で実直だ。
 しかし現地で審査員が感じていたように、もう少し木を本質的に構造体として使うことはできなかったのか、違和感は残る。屋根の大部分を占める複雑な鉄骨フレームが「隠れていること」によって生まれるシンプルで人間的な印象のドームは、社会全体が「頑張って」はじめて生まれるインクルーシヴィティと重なって感じられた。

重松 象平(選考委員・建築家)


 シェルターインクルーシブプレース コパルを見学し、平岩良之さんが複雑な曲面フォルムに構造システム・素材・部材配分を上手に操作しながら素晴らしい構造をまとめていることを拝見することができた。建物を訪問する前に期待していた柱とブレースの少なさから得られる周辺とのつながりや、開かれた空間は十分に実感することができた。それと何よりも利用している子どもたちの喜びとリラックス感を見るのはとても嬉しかった。
 集成材を活用するために、空間を覆うドーム型屋根のアーチ効果を出すよう周りに鉄骨曲面トラスを利用している。これはこの屋根構造のテーマになっている。このやり方で厳しい積雪を耐えなければならないが、アーチ効果により25mと19mスパンの木梁の成は450mmに抑えられている。木材のスラスト力は周りの鉄骨で抑えられ、全体的な「ひらき」は少ない。このため柱や下のRC躯体に無駄な水平力は入っていかないよう考えられている。
 私としては木材のスラスト力と外周鉄骨の抑え力を、そのまま天井面に表現ができたらと思った。平岩さんが決めるところではないであろうが、やはりせっかく構造家が想像した木材と鉄骨フレームの物理的な押し合いやバランスを隠すことは少し残念である。 この作品では平岩さんが日本構造デザイン賞を受賞できる実績を十分みせている。

アラン・バーデン(選考委員・構造家)


 受賞作品は、周囲に蔵王連峰が間近に迫った緑一色の田園風景が広がる場所にあり、白色の柔らかな自由曲面の屋根がふわりと浮かんでいるのびやかな形態の建築であった。現地視察の日は、建物内部は子どもから大人まで多くの人で溢れ、子どもたちが走り回って遊んでいる様子も間近に見れ、市民に愛されている施設であることがわかった。
 構造計画上は、ふたつの円形の無柱空間を実現するため木製のアーチ梁で軸力抵抗させ、そのスラスト力を周辺の屋根全面鉄骨平面トラスで抵抗させている。屋根鉛直力は鉄骨細柱で受け、全体の地震力は要所に配置された鉄骨ブレースおよび一部RC躯体に流すという、役割を明確に分けた計画であった。この屋根平面鉄骨トラス組みは水平抵抗に有効であることに加え、多雪地域である山形市の積雪荷重を抵抗させるため梁材としての部材スパンの均一化、最小化にも有効であったとの平岩さんの説明でこの組み方の設計意図や苦心が理解できた。
 レベルの異なる部材が集まる接合部は通常鋳鋼を用いるが、接合部鋼管内に複数のダイヤフラムを内蔵させ剛接合を実現している。最小限に配置された鋼管ブレース、そこから基礎部へ力の伝達などさまざまな工夫がみられた。PFI事業のため短い設計施工期間であったため、構造計算時モデルを施工者に提供し、ものつくりにも大きく貢献された。
 平岩さんは、建築家の要求やイメージに対して真摯に向き合い、ご自身でその解を見出され、さまざまな面で難易度を有する建築と構造を見事に実現された。平岩良之さんは、日本構造デザイン賞に相応しい構造家である。

原田 公明(選考委員・構造家)


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