2013年第8回
日本構造デザイン賞

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満田 衛資(みつだ・えいすけ)
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経歴(受賞時)
1972年 京都市生まれ
1997年 京都大学工学部建築学科卒業
1999年 京都大学大学院工学研究科建築学専攻修了
1999年 佐々木睦朗構造計画研究所
2006年 満田衛資構造計画研究所設立
2011年 JSCA賞新人賞(中川政七商店新社屋)

主な作品
2007年 Shelf-pod
2008年 カタガラスの家

2008年 マイコムVEST研究所
2009年 須波の家
2010年 中川政七商店新社屋
2012年 カモ井加工紙第三撹拌工場史料館
2013年 京都大学思修館

著書
『ヴィヴィッド・テクノロジー』学芸出版社(共著)
『1995年以後』エクスナレッジ(共著)
『構造デザインの歩み』建築技術(共著)
『リアル・アノニマス・デザイン』学芸出版社(共著)

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大阪府立春日丘高等学校創立100周年記念会館
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南側外観。(撮影:鈴木研一)   ▶

大阪府立春日丘高等学校創立100周年記念会館
所在地 大阪府茨木市/ 主要用途 集会所/ 竣工2012年/ 発注者 大阪府立春日丘高等学校創立100周年記念事業実行委員会/ 設計 井下仁史/ 施工 掛谷工務店/ 敷地面積 493.67m2/ 建築面積 214.20m2/ 延床面積 199.52m2/ 階数 地上1階/ 構造 壁式鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造/ 工期 2011年7月〜2012年1月/ 撮影 鈴木研一

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選考評
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それぞれの工夫は他愛ないのであるが、その工夫をいつどこでどのように使うかというバランス感覚が非常に優れている構造家である。目新しいトリックは何もない。しかしながら建築の品格を達成するために目新しいトリックは必ずしも要らない筈である。氏の作品は優秀な素うどんである。
異常なまでに王道である。
春日丘高等学校100周年記念会館はそのさりげない詳細が心憎い。いずれにせよカットTは梁背を必要とするのであるから、量感を隠さずあるがままをリズムとして表現する。支点をピンとして柱に曲げモーメントを入れずに柱をシャープに仕上げる。このピンの部分で当然の事ながら梁背を絞るのであるが、この構造的合理性とファサードの取り合いの関係が一石二鳥で解けているところが心憎い。しかも柱はカットTとの意匠面での相性が良い十字型である。同時に応募した中川政七商店旧社屋増築練では片肘ラーメンというありふれた手法を使われているが、そのバランス感覚が素晴らしい。100×100という1/36プロポーションの柱がさりげなくファサードに溶け込んでいる。
構造家の大切な資質としてコミュニケーション能力がある。満田氏はアトリエ派の吉村靖孝氏とやろうと、大手の佐藤総合計画とやろうと同じ氏らしい作家性と品格を達成している。実に油断のならない構造家である。気がつけば静かに満田マークをそこここに忍び込ませているではないか。

手塚 貴晴(選考委員・建築家)

卓越した構造デザインとは何であろうか?最先端の技術を駆使して時代を引っ張ってゆくような構造デザインはもちろんそれであろうが、一方で、決して派手さはないが洗練された構造的工夫により、優れた建築に導くようなデザインのほうがむしろ尊重されるべきである。前者を「動の構造デザイン」とすれば、「静の構造デザイン」とでも言うべきか。ここぞとばかりに構造を主張する“ドヤ顔”の作品を目にすることがあるが、構造は目的でなく手段であるのだから構造が主張しすぎたり、頑張るところを間違えてはいけないと常々感じている。そう言った意味で、満田君の作品には清々しい心地よさを覚える。
受賞作となった春日丘高等学校100周年記念会館は、RC壁に細柱という言ってみればどこにでもある普通の構造であり構造技術という面では特に目新しいことをしているわけではない。しかしながら、その中には彼独特の巧みなアイデアと緻密なスタディが満ち溢れている。しかもそれらが過度の主張をすることなく、決して無理をせず、さわやかな空間に仕上げている。あくまで“さりげなく”やってのけるところが心憎い。

陶器 浩一(選考委員・構造家)

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