2012年第7回
日本構造デザイン賞
松井源吾特別賞

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小堀 徹(こぼり・とおる)
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経歴(受賞時)
1954年 東京都生まれ
1977年 東京芸術大学美術学部建築学科卒業
1980年 東京芸術大学大学院美術研究科
     建築理論専攻修了
1980年 東京芸術大学美術学部建築学科非常勤助手
1982年 日建設計入社
現在 名古屋代表兼海外プロジェクト担当

主な作品
1992年 三井住友海上名古屋ビル
1997年 クイーンズスクエア横浜
2000年 さいたまスーパーアリーナ
2001年 パシフィックセンチュリープレイス丸の内
2001年 上海信息大楼
2002年 センチュリー豊田ビル
2008年 モード学園スパイラルタワーズ

著書
『「広さ」「長さ」「高さ」の構造デザイン』建築技術(共著)

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業績:さいたまスーパーアリーナやモード学園スパイラルタワーズ等の一連の大規模建築の構造デザイン
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さいたまスーパーアリーナ。   ▶

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選考評
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今年度の松井源吾特別賞は現日建設計名古屋代表の小堀徹氏に決定した。日本構造デザイン賞の中に、松井源吾特別賞が設けられてから、毎年1名本年で5人目の受賞者となった。日本構造デザイン賞は自薦、他薦は問わないのであるが、作品賞の色合いが強い建築作品は自薦の形をとる場合が多く、松井源吾特別賞候補者は今まで全て日本構造家倶楽部会員による推薦で決定されている。小堀氏からも、突然推薦され、その戸惑いが伝えられたが、松井源吾特別賞は、応募案内にも示されているように、「構造家としての活動・業績が、社会的、文化的功労の観点から顕著な個人」の顕彰を目的とし、小堀氏の日建設計における構造家としての活動・業績が認められたことになる。
小堀氏は日建設計の中で、単に構造技術に拘ることなく、常に社会の中でその建築に求められている役割を認識した上で、総合的価値判断のもと独自の構造的解決を見出し実現している。また、組織事務所エンジニアリング部門に身を置きながらも、構造デザインを追求し啓蒙活動をしていること等が特筆される点であるが、作品の面においても構造家としての優れた才能がうかがえる。
1982年入社以来30年にわたる構造設計活動の中からふたつの作品を紹介したい。ひとつは大スパン建築で国際指名コンペを制し実現された「さいたまスーパーアリーナ」(2000年竣工)であり、もうひとつは超高層建築でその特異なデザインが話題となった、「モード学園スパイラルタワーズ」(2008年竣工)である。さいたまスーパーアリーナは、音楽イベントやスポーツなどに利用可能な建物で、ひとつの空間にアリーナとスタジアムという二つの要素を取り入れた点に特徴がある。大屋根で覆われた内部には、観客席やコンコースなどを内蔵した「ムービングブロック」という15,000トンの構造物があり、それが18本のレール上を70m移動することで二つの機能を可能にしている。アリーナ上部を覆う、総重量3,540トンの巨大な屋根は、リフトアップ工法が採用され、落差60.7mが、三日間でリフトアップされた。
モード学園スパイラルタワーズは、三つの専門学校の3つの教室群が上階に行くに従い徐々に位置を変え、ねじれたような外観をもたらしている。常時の荷重や施工時にもねじれが発生する構造体に対し、建物中央部に楕円形のコアを設け、これにラチスチューブとして強剛なねじれ剛性を持たせ対処している。さらに3種類の制振構造を付加することで高い安全性と透明感溢れる軽快な外周フレームを実現している。一方は複雑な機能を持つ大スパン建築であり、一方は複雑な形態を持つ超高層建築である。
長年にわたる構造デザインの啓蒙活動に加え、この二つの特殊解を見事に解いた構造家小堀氏は松井源吾特別賞に値する。

梅沢 良三(選考委員長・構造家)

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