2024年第19回
日本構造デザイン賞

総合選考評

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坪井 宏嗣
(つぼい・ひろつぐ)

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つぼい・ひろつぐ

経歴(受賞時)
坪井宏嗣構造設計事務所
1976年 山形県生まれ
2001年 東京大学工学部建築学科卒業
2003年 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了後、佐藤淳構造設計事務所勤務
2006年 坪井宏嗣構造設計事務所設立
2021〜2022年 明治大学兼任講師

主な作品
INBETWEEN HOUSE(2011年)、躯体の窓(2014年)、金光教諫早教会(2015年)、上総希望の郷 おむかいさん(2015年)、十条の集合住宅(2016年)、蝶番の家(2017年)、写真家のスタジオ付き住宅(2017年)、古澤邸(2018年)、石黒邸(2021年)、上松町役場(2021年)

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グラウンド・ルーフ
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バス3台分の駐車場を内包する大屋根の駐車場棟と屋根下のトイレ棟。(撮影:Kenta Hasegawa)  ▶

グラウンド・ルーフ
所在地:福岡県福岡市/主要用途:自動車車庫/竣工:2020年/発注者:学校法人/設計:藤村龍至/RFA+林田俊二/CFA/施工:東急建設九州支店/敷地面積:9977.59㎡/建築面積:417.31㎡/延床面積:255.48㎡/階数:地上1階/構造:S造/工期:2020年5月〜2020年12月

 

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選考評
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 建築家として協働する構造家に期待することは、私の場合、自らがつくろうとしている空間に、技術的な視点から異なる意味を与えてくれることである。彼らとの対話を通じ、もやもやしたイメージが徐々に整理され、建築が進んでいく方向に確信を得ることができる。然るに「グラウンド・ルーフ」における建築家と構造家の関係性は様子が異なる。ここで構造家は最初から最後まで、架構の持つ意味について建築家と共に悩みつづけている。現地で聞いた坪井さんの説明も、最初はとても分かりづらかった。しかし問答を繰り返すうち段々と腑に落ちて、あらためて引いた目線でこの大屋根を眺めると、微妙だが確かに意志を感じる全体形状と、不均質な軒裏架構の見え方などの総体から、彼がやろうとしたことが滲み出すように伝わってきたのだった。部材を小さくしたからといって空間が親密になるとは限らないが、架構が持つ場所によるムラや、手仕事が生む適度なノイズによって、私たちの身体に極めて近い希有な公共空間が実現していた。そこに、建築に判りやすい全体像を与えることを拒否して徹底的に探求を繰り返す「悩む構造家」という、坪井さんならではの新しい構造家像を見た。

安原 幹(選考委員・建築家)


 1/5の重力が働いた場合の弛んだ屋根の形が「自然なかたちと思った」そうである。定規で引いたような水平面より力学的に撓んだ形を自然と感じる感性に気がついた構造家の言葉。以前左官職人が「精度を規定する糸を引くより、直線を目指し塗る壁の方が美しい直線になる」と言った言葉を思い出す。だがそれを1/5の重力と「規定」して1Gの世界に入念に持ち上げたバス駐車場の屋根は、「自ずから然るべき形」といった生成の対極、執念の賜物である。それは安全基準という正義の檻の中で自由を表現するダンサーのようで、単純に「自然なかたち」とは私には思えなかった。批判的に言うなら材料やピッチを定数化することで見える1/5Gの屋根形状は、鉄パイプを身体的に理解するものにのみ感知される微細な撓みの再現なのである。それでも、私はこの構造家の気付きの延長に、多くの普通の人びとが、世界を構成する物を自らの身体の連続として力学的に理解し生きる、ワイルドで物質的で動的な世界を感じてワクワクするのであった。よって、グラウンド・ルーフに至る構造家の率直な感性を高く評価し、日本構造デザイン賞を贈らせていただきたい。

原田 麻魚(選考委員・建築家)


 屋根をつくるというシンプルな建築であるが、複雑怪奇な架構となっている。雲がたゆたうような天井架構は、50mm×50mm角パイプや50mm×50mmアングルのビルトボックスを、応力や変形に応じて、最大5段まで格子状に現しで積み重ねられているのだが、屋根がしなだれて見えるのは、フラットな屋根を目指すのではなく、あえて0.2Gの初期たわみを設定したというのである。解析手順は、1ステップごとに必要部材を付け足して、収束計算を行ったという。最終形態の架構からは、力の流れを適切に読み取れず、構造合理性だけでは上手く語ることができない架構が構築された本作品は、自ら設定した解析手法と条件から生まれた構造設計者によるアートワークともいえるであろう。本建物への渡り廊下や、屋根下に配置されたトイレ棟を、すべて50mm角の角パイプでつくり上げている点も、本作品への強い思い入れを感じるところである。

鈴木 啓(選考委員・構造家)


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