2019年第14回
日本構造デザイン賞

総合選考評

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与那嶺 仁志
(よなみね・ひとし)

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与那嶺 仁志

経歴(受賞時)
1970年 愛知県生まれ
1994年 日本大学理工学部建築学科卒業後、構造計画プラス・ワン入社
1998年 Arup 東京事務所入社(2000年香港事務所、2004年~07年ロンドン本社勤務)
2018年〜 日本大学、工学院大学非常勤講師

主な作品
中部国際空港セントレア旅客ターミナル(2005)
More London PLOT4(2005)
ソニー・シティ(2006)
Kensington Oval Barbados Cricket Grand, Kensington & Inniss Stand (2007)
ほうとう不動(2010)
Seto(2014)
狭山霊園管理事務所・礼拝堂(2014)
新国立競技場 – Zaha Hadid Architects案(2015)

著書
『構造デザインの歩み―構造設計者が目指す建築の未来』(共著、JSCA構造デザインの歩み編集WG)
『建築形態と力学的感性』(共著、日本建築学会)

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道の駅ましこ
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北側に拡がる水田越しに見る 撮影:道の駅ましこ

道の駅ましこ
所在地:栃木県芳賀郡益子町/主要用途:道の駅/発注者:益子町/設計:MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO/施工:株式会社熊谷組/敷地面積:18,011.88㎡/建築面積:1,595.26㎡/延床面積:1,328.84㎡/階数:地上1階/構造:RC造(一部木造)/施工期間:2015年9月〜2016年9月/撮影:道の駅ましこ、MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO、Fujitsuka Mitsumasa、Arup

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選考評
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 「道の駅ましこ」は、のびやかに広がる田圃風景のなかに建つ。位相をずらしながら3層に配されたスギ集成材の登り梁が、山並みの風景に連なるリズミカルなシルエットと奥行き感を形づくる。最大32mをダイナミックに飛ぶ登り梁は、接合部において金物や転び止めの存在が感じられず、接合していることを忘れさせるかのような透明感ある納まりが美しい。桁行方向の応力伝達は、ずれながら隣接する屋根の交差部にある根太を長ボルトで一体化することで実現している。また、梁断面を1,000mm×135mmで統一しながら、スパンによってピッチを違えることで、構造上、施工上の合理性と同時に、内部空間各所に適度な変化とゆらぎがもたらされている。
 地域資源の発信交流拠点となるこの建築は、素材やスケール、風景との共振による居心地よさといった具体性と同時に、ある種の力強い抽象性も魅力的である。明快なアイデアが考え抜かれた納まりによって実現したこの作品は、建築家と構造家の望ましいコラボレーションそのものであろう。

高橋 晶子(選考委員・建築家)

 建築における構成部材の最適なプロポーションは、建築作品を評価する際の重要なひとつの要因としてあげられる。
 また構造システムを構成するエレメントが空間に露出表現され、積極的に意匠デザインへ寄与する構造デザインは、その作品を評価する際の議論の対象として、空間に対する最適な断面形状の選定がとても大切となる。
 受賞作品である本建物は、焼き物で知られる栃木県益子町につくられた道の駅である。田園の中に佇み、背景に見える山並みに合わせた山形形状の木造屋根は、風景との一体化を図りながらも、ダイナミックな造形でもある。
 その木造屋根の特徴は、切妻形状による3ヒンジの山形アーチによるものであり、一室空間の平面を複数の切妻屋根の配置によって3列のゾーンに分節し、店舗の必要面積に応じてずらしながら構成している。またそれぞれの屋根のずれから生じる妻面のガラスが立面的に重層することによって、建物内部の奥行きからランドスケープとの連なりも得られている。
 切妻屋根のスパンは最大32mで最小は14mとランダムであるが、135mm×1,000mmの梁断面を地場産材の八溝杉による集成材によって統一し、スパンに応じて梁のピッチを適宜調整している。
 この梁せいの統一を優先することによって、部材の制作とディテールの共通化による合理化が得られ、各ゾーンにおける最適な部材断面の選定と構成によってとても清々しい居心地のよい空間がつくられている。  またシンプルな形態と部材構成であるがゆえに、頂部と柱脚のピン接合部は緻密な検討によってウッドタッチを多用した繊細なディテールを採用し、横つなぎ材等の二次部材の省略も図ることによって、シンプルさを際立たせている。
 以上より、構造体が建築の形と空間に対しとても高いクオリティで融合した本建築作品に対して真摯な姿勢で構造設計に取り組み、また世界各国の先鋭的な建築作品に数多く関わった実績を有する与那嶺仁志氏に日本構造デザイン賞を贈るものである。

多田 脩二(選考委員・構造家)

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