2009年第4回
日本構造デザイン賞

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佐藤 淳(さとう・じゅん)
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経歴(受賞時)
1970年 愛知県生まれ
1995年 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程卒業
1995年 株式会社木村俊彦構造設計事務所
2000年 佐藤淳構造設計事務所設立
現在 芝浦工業大学、慶応義塾大学、東京大学非常勤講師

主な作品
2003年 ツダ・ジュウイカ
2004年 クリスタル・ブリック
2005年 公立はこだて未来大学研究棟
2006年 NYH、芦北町立佐敷小学校
2008年 N House、ヴェネチアビエンナーレ2008

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芦北町地域資源活用総合交流促進施設
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外観。(写真提供協力:新建築社)

芦北町地域資源活用総合交流促進施設
所在地 熊本県葦北郡芦北町大字花岡1523/ 主要用途 地域交流施設/ 竣工 2009年/ 発注者 芦北市(「くまもとアートポリス」参加プロジェクト)/ 設計 建築:ワークステーション、 構造:佐藤淳構造設計事務所、 設備:環境エンジニアリング/ 施工 松下・佐藤建設工事企業体/ 敷地面積 95,706m2/ 建築面積 1,386.34m2/ 延床面積 1,386.34m2/ 階数 地上1階/ 構造 鉄筋コンクリート造 一部木造/ 工期 2008年2月〜2009年1月/ 撮影 新建築社

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選考評
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「幸運とは努力の結果を出したものが言う台詞」
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今年の構造デザイン賞は佐藤淳に決まった。至極当然のような気がする。
佐藤さんは年齢的にはまだ若いものの、藤本壮介さんやシーラカンスの小嶋さんの仕事など既に多くの建築家たちとコラボレートしていて、若手では人気のある構造家の一人だ。今回も建築家の高橋晶子+高橋寛(ワークステーション)から声がかかったものである。熊本アートポリス参加プロジェクト、中身は体育館のような地域交流施設と云うことである。
体育館のような・・・とは、交流施設として各種イベントのため、相撲の土俵や寝泊まりできる合宿所を兼ねているためか食事の用意の調理場まで揃えた施設なのだが、実際にバトミントンコート4面を確保するために長手約45mの無柱空間を必要として、今回の賞の対象となる構造形式が生まれたこととなる。
構造形式は木造のシェル。アイディアとしては昔からある訳で、家の台所にある「カゴ」を裏返せば誰もがすぐに理解できる形式なのだ。しかし誰がこの構造を実現させたであろうか?現実には有りそうでなかった、今まで実現に至らなかった構造・工法と言えるのではないだろうか。プロダクトのスケールでは竹籠のように素材を編み込んで強度を得ることは容易に考えられるものの、建築のしかもスポーツ施設をしてのスケールともなると尋常ではない。幅900mm×120mm厚の杉集成材を用いて交点を相勺りとして編んだように組み込まれている。交点はラグスクリューで固定されているが、上面から止められているので室内から見上げても見えない。最終形は美しい木質の曲面と光の陰影が対比されて空間そのものも美しく納まっている。・・・とはいえ、こういった空間を実現するために通過しなければならない検証過程が簡単ではなかったことは明らかだ。彼はそれを偶然が重なったことが幸いしていると述べているが、シェル形状を知るための懸垂模型、風圧を検証する風洞実験、モックアップによる強度破壊試験などなどを通して得られた経験のすべてを包括して言い換えた言葉なのだろう。シェル曲面形状は楕円、すなわちラグビーボールの形状が最適と分かるが、部材製作上のコスト効果を考えて球体を選定する。しかしそれでも実際の部材製作の立体形状は施工者と山佐木材の技術、さらにはRC壁との接合部スティールの脚柱の製作の技術力など計り知れない協力が働いていることは明らかである。役場の方々を含めてこの建築に関わった人々の前向きな姿勢が成功に結びつけることとなったのだが、木造の網かご構造に光を当て可能性を広げた功績、それら全てを統括して来た佐藤さんと建築家の努力を称讃したい。

横河 健(選考委員・建築家・日本大学理工学部教授)

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