2008年第3回
日本構造デザイン賞

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阿蘓 有士(あそ・ゆうし)
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経歴(受賞時)
1955年 山形県生まれ
1983年 法政大学大学院 建設工学科構造専攻修了
1983年- 川口衞構造設計事務所

主な作品
1983年 サンジョルデスポーツパレス
1984年 シンガポールインドアスタジアム
1991年 サンドーム福井
1992年 京都コンサートホール
2001年 天津博物館
2004年 鬼石町多目的ホール
2006年 JR四国高知駅舎

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日向市駅舎
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外景。(撮影:内藤廣建築設計事務所)   ▶

日向市駅舎
所在地 宮崎県日向市/ 主要用途 駅舎/ 竣工 2007年/ 発注者 宮崎県、日向市、九州旅客鉄道(株)/ 設計 (株)内藤廣建築設計事務所、 (株)交建設計九州事務所、 九州旅客鉄道(株)/ 施工 九鉄工業(株)、吉原・協栄建設工業共同企業体/ 敷地面積 5283m2/ 建築面積 2891m2/ 延床面積 860m2/ 階数 地上1階/ 構造 鉄骨造+木造(集成材)/ 工期 2005年11月〜2007年2月/ 撮影 (株)内藤廣建築設計事務所

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選考評
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  内藤廣氏が連綿と続けているリニアな空間構造は、さまざまな構造システムでサポートされてきた。そのいずれの構造もシステムと呼ぶに相応しい規則性とその繰り返しのパターンによって、空間の力強さとともに美しさを支えてきたと思われる。
  内藤氏の端倪すべからざるところは、常に新しいシステムへの挑戦である。ただしここでシステムというのは、単に構造の分野に限ったわけではない。地場産のスギ材の使い方においても、システム的な考え方が強く表れている。さらに言えば、地場との協働の仕方から最終的な集成材の形体の決め方までを含んでいる。たとえば宮崎のスギはいわば銘木的な存在である。それを集成材としてしまうのには心情的な抵抗があったに違いない。それを説明し得たのは林業関係者に理解される展望を与えたからではないか。そこには誰でも理解できる理論的な考え方があったはずである。
  また、大梁の形体がモーメント図そのままであるように見えるのだが、別な見方をすれば根に近いアテまでも利用した民家の牛梁に見えてくる。しかも合せ梁である。これが丸太で重なってくれば民家であるが、薄い見付けとなると和風の意匠となる。その連想はさらに広がって下屋の軒垂木は吹き寄せか。
  そういえばテンションを支えている細いロッドは、軽やかでありながらしっかりと蛇の日傘の竹骨を繋ぐ糸のように見えなくもない。
なにもこんなアナロジーを使って無理やり和風の範疇に押し込もうというのではない。土木的なスケールになりがちな駅舎にも、これまで様々な建築家が挑戦してきた。しかし、当初は駅舎とは言いながらほとんどが駅ビルであり、外観としては存在していたものの、乗客からは見えない存在がほとんどであった。ところがこの日向市駅においては、まさに駅を覆う鞘堂として、駅に向かう人にとっても、また列車を降りる人にとっても、同じ表情で迎えてくれる駅舎の誕生である。とはいってもどこにでもある表情ではない。そこには確かな個性を感じるのである。
  それを可能にしたのは、同じシステムを繰り返して使わないという内藤氏の志向である。構造というシステム自体が普遍性を希求しており、普遍性によって一般化するという図式がある。これは何も構造に限らずデザインにおいても同様のことが言える。まさに流行を生み出すのである。建築に関わるものにとって、普遍性と固有性との葛藤がそこにある。
  その意味ではこの日向市駅の構造システムは特殊解であるかもしれないが、内藤独自のデザイン的パターンによって普遍性を表現しているように思える。あるいはその逆だろうか。
  いずれにしても内藤氏は感性的な理論を排除しようとしてるが、最終的な決定プロセスにおいては、システムや合理的な理論を常に用意しながらも、感性を最優先しているように見えてならない。そのわがままを可能とした構造設計者を評価したい。

中谷 正人(選考委員・建築ジャーナリスト)

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